ウェブアクセシビリティ (Web Accessibility) の今(2024)

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 ご存知ですか?2024年4月1日から改正障害者差別解消法が施行され、障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。ここではその法的背景とポイント、ウェブアクセシビリティに関する作業の全体的な流れを解説します。

法的背景

日付内容
2016年4月1日 施行障害者差別解消法 施行
  • 不当な差別的取扱いの禁止
  • 合理的配慮の提供
    • 公共機関 → 義務化
    • 事業者  → 努力義務
2021年6月4日 公布
  • 改正障害者差別解消法が可決成立し法改正がなされた
  • 合理的配慮の提供
    • 事業者  → 義務化
2024年4月1日 施行
法的背景

ポイント

 これまで障害者差別解消法により、公共機関に対して、障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されていました。2024年4月1日からは改正障害者差別解消法が施行されることで、公共機関以外の事業者も義務化されます。これから取り組む事業者や団体、教育機関等においては、先行して取り組んでいる公共機関が参考になります。

 ウェブサイトやウェブサービス(情報サービス)では、JISX8341-3:2016(=WCAG2.0)の適合レベルAAに準拠することが求められています 注1)。これを実現するためには、以下の4つの段階を実践する必要があります。

  1. ウェブアクセシビリティ方針を策定する
  2. 適合試験を実施する
  3. 適合レベルを達成するようHPを改修する
  4. 試験結果のページを作成し、公開する

 上記は1度実施すれば終わりというものではありません。ホームページは日々更新されるものであるから、継続的に繰り返す必要があります。

 1のウェブアクセシビリティ方針は、先行して実施している公共機関のウェブサイトで公開されているので参考になるでしょう。

 2の適合試験は、JISX8341-3:2016(=WCAG2.0)が定めた適合基準61項目にどれだけ適合しているかを検査します。参考とするチェックリスト 注2 も存在しますが、これを全て人為的に行うと多大な時間と費用がかかると思われるため、総務省が開発した評価ツール 注3 を使用することをお勧めします。ただしツールで確認できるのは2割から3割程度 注4 と言われているので、正確に評価するには人が目視で確認する必要があります(評価ツールでも人為的に確認すべき箇所は指摘してくれます)。また評価ツールは1ページ単位でチェックするため、50ページを評価対象とするなら、50回実行することになります。

 3の改修は、2の適合試験の結果を見て、1のウェブアクセシビリティ方針に定めた基準に達するよう改修します。改修後は改めて試験を実施し、適合状況を確認することが望ましいとされます。

 4は改修後の試験結果をウェブサイト上に公開します。改修には時間と費用がかかるため、改修前であっても現在の対応状況を公開することは、利用者に対して有益だと思います。

注1:総務省>みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)PDFおよび「みんなの公共サイト運用ガイドライン」についてPDF

注2:総務省>ICTアクセシビリティの推進の情報アクセシビリティ自己評価様式(書式1)自己評価結果(xlsx形式)およびウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC)>JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン>3.1.1 実装チェックリストの例の実装チェックリストの例2020年12月版(xlsx形式, 86KB)

注3:総務省>みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker (エムアイチェッカー)Ver.3.0

注4:デジタル庁>ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック page 19

ウェブアクセシビリティに関する作業の全体的な流れ

1)ウェブアクセシビリティ方針を策定する

  1. ウェブコンテンツの提供者は、JIS X 8341-3の適用範囲や、目標とするアクセシビリティ品質を定義・文書化し、ウェブアクセシビリティ方針として利用者に公開することが望まれます(引用:JIS X 8341-3:2016 附属書JA.1「企画」参照)。(ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>基礎知識 > アクセシビリティとは>ウェブアクセシビリティ方針の策定と公開
  2. 策定する推奨事項
    1. 対象 ウェブページ一式の中でウェブアクセシビリティを確保する対象を定める。
    2. 目標とする適合レベル この規格で定義されているレベルの中から目標とする適合レベルを選択する。
    3. 上記引用:ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン
  3. ウェブアクセシビリティ方針の公表例
    1. 京都大学図書館機構ウェブアクセシビリティ方針
    2. HEAP(京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム)
    3. なごやHIV・性感染症ガイド(2021年3月公開。弊社で「JIS X 8341-3:2016」の適合レベルAAに準拠することを目標に作成。簡易的な試験も実施)
    4. 総務省統計局
    5. デジタル庁
    6. 他、「ウェブアクセシビリティ方針」で検索すると多数ヒットします)

2)適合試験を実施する

  1. 参考
    1. ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン
  2. 試験の対象ページを選択する
    1. 総ページ数が100ページを超えるため、「JB.1.2 ウェブページ一式単位」で推奨するた「d) ウェブページ一式を代表するウェブページとランダムに選択したウェブページとを併せて選択する場合」の合計40~50ページ程度を試験対象にすることが望ましい。(ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン>2. JIS X 8341-3:2016「JB.1 適合試験の要件」に対する補足事項>2.2 ウェブページ一式単位での試験>d) ウェブページ一式を代表するウェブページとランダムに選択したウェブページとを併せて選択する場合
  3. 総務省が開発・提供する「みんなのアクセシビリティ評価ツール(miChecker (エムアイチェッカー))」を利用する。
    1. miCheckerですべてのアクセシビリティを検証できるわけではないので、複数のツールで多面的に試験を実施するのが望ましいが、時間、コストの面で難しいと思われます。
  4. 試験結果を分析する
    1. 参考:ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン>3.1.1 実装チェックリストの例

3)WCAG 2.0 達成方法集 を参考に、ウェブアクセシビリティ方針で定めた適合レベルを達成するようHPを改修する

  1. 注1:W3CのWCAGは現在、「JIS X 8341-3:2016」の一致規格
  2. 注2:WCAGの最新版は2.1で、スマートフォンなどのモバイル端末に対応した規格だが、日本ではまだJISの一致規格がWCAG2.0から更新されていない
  3. 上記注1および2については、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>JIS X 8341-3:2016 解説 を参照のこと。

4)試験結果のページを作成し、公開する

  1. ウェブコンテンツの提供者は、制作したコンテンツのアクセシビリティ品質が目標としたレベルに達しているか試験し、その結果を利用者に公開することが望まれます(JIS X 8341-3:2016 附属書JA.4「確認」参照)。(引用:ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>基礎知識 > アクセシビリティとは>試験の実施と結果の公開
  2. 参考
    1. ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン
    2. ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)>「こうすれば書ける︕ウェブアクセシビリティ⽅針と試験結果表⽰」PDF
  3. 対応状況公表例
    1. 外務省
    2. 金融庁
    3. 総務省統計局(2018年5月)
    4. デジタル庁
    5. 他、「ウェブアクセシビリティ 試験結果」で検索すると多数ヒットします。

    参考

    上記リンク先の上位階層のページをまとめました。

    ウェブアクセシビリティ全般

    ウェブアクセシビリティ方針の公表例

    1. 京都大学図書館機構ウェブアクセシビリティ方針
    2. HEAP(京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム)
    3. なごやHIV・性感染症ガイド(2021年3月公開。弊社で「JIS X 8341-3:2016」の適合レベルAAに準拠することを目標に作成。簡易的な試験も実施)
    4. 総務省統計局
    5. デジタル庁
    6. 他、「ウェブアクセシビリティ方針」で検索すると多数ヒットします)

    JIS X 8341-3に基づく試験結果

    他、参考

    機械チェック